お知らせ
【特別対談】
脱炭素社会の実現に向けて、いま新電力にできること
政府は「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」との基本方針を示し、成長戦略の柱として「経済と環境の好循環」を掲げた。日本もいよいよ国を挙げて “脱炭素”への取り組みを進めようとしている。一方で、社会を動かすエネルギー、電力市場に異変が起きている。コロナ禍の中、これまでとは桁違いの高値が続いているのだ。
新電力は、この状況をどう捉えているのか? 脱炭素社会の実現に向けて、何を成そうとしているのか? 新電力業界の雄・丸紅新電力の山本毅嗣氏と、独自のスキームで電力販売の可能性を広げ続けるイーネットワークシステムズ及川浩氏の対談が実現した。両社の取り組みから見えてくる、2050年への道標とは──。
[聞き手:廣町公則(エネルギージャーナリスト)、撮影:有馬朋子]
市場に依存しない、安定供給を可能にする電源調達とは?
──卸電力市場価格の高騰が意味するもの
山本:昨年末からの卸電力市場は、高くなったというレベルを超えた異常な高騰を続けています。1kWhあたり7円8円だった価格が、150円200円、高い時には250円以上にまで跳ね上がってましいました。1日2日の一時的なものならともかく、それが何週間も続くというのは、異常な状況と言わざるを得ないでしょう。
深刻な影響を受けてる新電力(小売電気事業者)も存在します。我々も新電力業界の一員として、規制官庁である経済産業省に対し、その異常さを訴えてきたところです。
及川:おっしゃる通り、様々な要因があったとはいえ、この市場価格は異常ですね。経済産業省が緊急対策を実施したことで、発表後からは最高価格200円に留まっていますが、それでも異例の高値が続いていることに変わりはありません。私どものところにも、価格高騰にあえぐ他社さんの声は届いてきます。
──事業運営への影響は?
山本:私ども丸紅新電力は、お客様に供給する電力の大半を、丸紅グループがもつ自社電源と、個別に契約を結んだ発電事業者からの相対調達で賄っており、。卸電力市場からの調達は限定的です。しかし、この状態が続けば、業界が疲弊し、日本の電力の安定供給すら危ぶまれる事態にもなりかねません。
及川:私どもイーネットワークシステムズも、市場価格高騰による直接の影響は受けておりません。小売電気事業者として当社が販売する電力は、卸電力市場から直接調達してはおらず、そのほとんどを丸紅新電力さんから調達しているからです。これまでと変わらず安定的に供給していただいているので、市場がざわついている中にあっても、腰を据えて事業を行うことができます。
山本:私どもは長年電力事業をやってきましたが、電力事業というのは、しっかり発電をして、正確な需給管理を行い、お客様に安定的に電気をお届けすることだと考えています。重要な社会インフラを扱っているものとしては、市場に振り回されて、お客様に不安を与えるようなことがあってはなりません。市場環境が乱れているときだからこそ、我々の責務は一層重いと肝に銘じているところです。
及川:なるほど、良く分かります。じつは私、前職が東京電力でして、長く電力事業に携わってきたものですから、山本社長のお考えにはとても共感を覚えます。丸紅新電力さんは、長期的に電力事業に取り組んでいく姿勢と思想をお持ちです。
当社もそうですが、例えば、お客様にいったん提示した金額を上げたくはないんですね。しかし、市場からの調達比率が高い場合、それでは経営が立ち行かなくなってしまいます。丸紅新電力さんは、そうならないための取り組みをずっと続けてこられました。安いときに安いものを仕入れるというようなやり方ではなく、自社電源の開発も含め、長期安定的な供給体制の確立に努めていらっしゃる。市場からの調達比率を低くして、相対で確実に電源を確保するというのも、一朝一夕にできることではありません。
丸紅の電源開発×イーネットワークシステムズの独創性
──丸紅新電力とは、そもそもどんな会社なのか
山本:丸紅新電力は、総合商社「丸紅」の電力小売会社という位置付けになります。もともと丸紅の電力事業は海外からスタートしておりまして、既に半世紀以上の歴史をもっています。1960年代には発電設備の輸出が始まり、その後、発電所の建設請負いわゆるEPC(Engineering,Procurement,Construction/設計・調達・建設)という領域にも、いち早く参入しました。
1994年からはIPP(Independent Power Producer /独立系発電事業者)として海外での発電事業にも取り組み、2020年12月末現在、海外19ヵ国で44案件、発電設備の持分容量で約12,000MWを有しています。イギリスなど電力自由化が進んだ国でも、電力小売に取り組んできました。
及川:海外での豊富な経験が、日本国内のビジネスにも活かされているわけですね。
山本:はい。国内での電力事業には2000年の電力小売部分自由化のときから本格参入いたしまして、丸紅グループ全体でみると、 長野県伊那市の三峰川水力発電所を皮切りに、電源開発にも努めてまいりました。2020年12月末現在、国内発電事業は27案件、持分容量567MWに達しています。
電力小売は2000年、三峰川水力発電所の電気を中部エリアに供給するというところからスタートしました。丸紅新電力として動き始めたのは2016年の電力小売全面自由化からですが、当社には、丸紅グループが20年以上にわたって培ってきた電源調達や需給運用のノウハウが集約されているのです。
それらの強みを活かして、企業から一般家庭まで幅広いお客様に電力を販売しています。加えて、いわゆるバランシンググループサービスを提供していて、需給管理の代行業務や新電力(小売電気事業者)の電源調達先としてもご利用いただき、丸紅グループの豊富な自社電源をベースに、市場価格に左右されない電力をお届けしています。
及川:当社も、丸紅新電力さんから電力を仕入れているわけですが、市場価格高騰の影響を受けないというのは本当に有難いところです。仕入れ値の変動リスクを気にすることなく、お客様の課題解決に専念できるメリットは計り知れません。
──“電気を売る仕組み”を提供するイーネットワークシステムズ
山本:イーネットワークシステムズさんは、当社が電力供給をしている新電力の中でも急成長を遂げられている会社です。その背景には、イーネットワークシステムズさんならではの立ち位置、ビジネススキームの独自性があるのではないでしょうか。
及川:ありがとうございます。たしかに当社は、多くの新電力とはポジションを変えて事業展開しています。一般的に新電力は“電気を売る”のがミッションですが、当社は主に“電気を売る仕組みを提供する会社”として電力事業を行っています。私たちは、これを「電力小売プラットフォームサービス」と呼んでおります。簡単に申しますと、提携先様に電気を売る仕組みを提供して、提携先様の販売チォネルを活かし、提携先様のブランドで電気を販売するというものです。
例えば、小田急電鉄さんと提携して、「小田急でんき」という電力供給サービスを行っています。あるいは、「ビットコインが貯まるでんき」など、提携先様それぞれの強みを活かしたサービスを展開できるプラットフォームとなっています。岐阜県では、地方創生の観点から、電子地域通貨「さるぼぼコイン」の使用を促す電力供給サービスの構築にもお役立ていただきました。
山本:様々な企業との提携を実現し、その提携が提携先企業のブランド力を高め、電力販売量の増加という結果になって表れている。それぞれにWin-Winの関係を築いているところが素晴らしいですね。当社としても、できるかぎり協力させていただきます。
──「電力小売プラットフォームサービスfor新電力」とは?
及川:今年1月15日には「電力小売プラットフォームサービスfor新電力」という新しい取組みをスタートさせました。これまでの電力小売プラットフォームサービスが、小田急電鉄さんなど“従来は電気の販売をしてこなかった企業”に向けて電気を売る仕組みを提供しているのに対し、「電力小売プラットフォームサービスfor新電力」は、その名の通り“新電力”に向けてプラットフォームサービスを提供するものとなっています。卸電力市場価格の高騰を受けて、事業環境の急変に苦しんでいる新電力さんのお役に立ちたいと考え、立ち上げました。電源調達のサポートやシステム提供をはじめ、業務受託から業務提携・資本提携まで幅広く対応させていただきます。
CO2フリーの電力メニューで、温室効果ガス削減に貢献
──脱炭素社会に向けて、どんな取り組みをしているのか
山本:「2050年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにする」ためには、電力の脱炭素化を進めていくことが何よりも重要です。丸紅グループでは、水力、風力、太陽光、バイオマスなど様々な再生可能エネルギー電源を開発し、グループ全体として発電部門の脱炭素化に努めてきました。
丸紅新電力としては、2019年12月から、特別高圧・高圧の需要家様向けに「CO2削減電力メニュー」と「再エネ電力メニュー」を供給しています。「CO₂削減電力メニュー」はCO2排出係数の低い電力、「再エネ電力メニュー」はCO2排出係数低減とともに再生可能エネルギー比率を向上にこだわった電力となっています。イーネットワークシステムズさんの取り組みとも、通じるところがあるのではないでしょうか。
及川:はい。当社は、電源開発は行っておりませんが、まずはお客様に提供する電気料金メニューを通して脱炭素社会の実現に貢献したいと考えています。現在、「グリーンプラン」「グリーンプラン・フォレスト」「グリーンプラン・RE100」という3つのプランをご用意し、お客様のニーズに合わせて実質的にCO2フリーの電気をお選びいただいております。
丸紅新電力さんから調達した電力をベースに、それぞれに特徴あるJ-クレジット(※1)を付与することで、電気の使用に伴うCO2排出量を相殺し、実質的にCO2フリーの電気をご使用いただけるというものです。「グリーンプラン」は、環境にやさしいうえに電気の価格が安いプラン。「グリーンプラン・フォレスト」は、森林由来のJ-クレジットに限定することで、環境に優しいだけでなく日本の森林を守ることもできるプランです。「グリーンプラン・RE100」は、RE100(※2)の取り組みを進めている企業へのお勧めプランとなっており、RE100の認証基準にもそのままで適合します。
先にご説明した「電力小売プラットフォーム」に、これらのグリーンプランを組み入れることで、提携企業様は簡単に、独自のCO2フリーメニューをつくることができます。実際に、小田急電鉄さんは昨年10月、「小田急でんき」に「グリーンプラン・フォレスト」を組み合わせて、「小田急でんきグリーンプラン」という新メニューをつくりました。
山本:電気とLPガスをセットにしたCO2フリープランもあるそうですね。
及川:はい。昨年12月から、CO2フリーの電気とLPガスのセットプラン「みつばちガス&電気グリーンプラン」の受付を始めています。グループ会社でLPガスを扱っている三ッ輪産業の「みつばちガス」と、私どもイーネットワークシステムズの電気「グリーンプラン」をセットにしたもので、J-クレジットを活用することで、電気に加えてLPガスもカーボンオフセットすることができるサービスです。電気もガスも、実質的にCO2フリーのエネルギーをご使用いただけます。
ちなみに、本プランのJ-クレジットは、丸紅新電力さんから購入する予定です。
山本:ありがとうございます。電気とLPガスとJ-クレジットの組み合わせは、これまで存在しなかったものです。日本初の試みとして、私どもも大いに期待しています。
及川:丸紅新電力さんも、今年1月に、電力販売の枠を超えた新しいサービスを発表されましたね。
山本:はい。「M-ECO(エムエコ)」という名称なのですが、脱炭素化を目指す企業の再エネ導入やCO2削減を、多様な電力関連メニューで支援していこうという総合的なサービスです。具体的には、「環境配慮型電力販売」「卒FIT買取」「省エネレポート」「国内外・環境証券仲介」「再エネ発電の活用支援」「EV車統合管理」という6つのメニューで、お客様の環境課題解決をトータルにサポートさせていただきます。
現在、その第一弾として、RE100やSBT(※3)など国際的な枠組みにも準拠した「環境配慮型電力販売」を強化しています。「再エネ電力メニュー」「CO₂削減電力メニュー」に加え、工事用電力の再エネ・CO2ゼロ化を支援する「環境配慮型工事用電力プラン」などもご用意し、お客様それぞれのご要望に柔軟に対応させていただいております。
及川:私も常々、お客様それぞれのニーズに、いかに対応できるかが問われていると感じています。もう安ければ売れるという時代ではありませんからね。
※1 J-クレジット:省エネルギー機器の導入や森林経営などの取り組みによる、CO2などの温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度。クレジットを購入することで、CO2排出量を削減したものと認められる。
※2 RE100:事業で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目標に掲げる企業が加盟する国際的イニシアチブ。
※3 SBT:温室効果ガス削減目標の指標。産業革命時期比の気温上昇を「2℃未満」にするために、企業が気候科学(IPCC)に基づく削減シナリオと整合した削減目標を促す枠組み。
明日のために、需要家の脱炭素ニーズに応え続ける
──電気を選ぶ基準は、価格から環境価値へ
山本:お客様(需要家)が電気を選ぶ基準は、価格だけではなくなりました。環境価値への意識が急速に高まっていることは、CO2フリー電力への関心の高さからも明らかです。私どもの親会社である丸紅もそうですが、自社で使用する電気をCO2フリーのメニューに替え、こういう環境経営をしているのだということを積極的にアピールする企業が増えてきました。脱炭素への取り組みがステークホルダーや投資家からも求められていますから、価格だけで電気が選ばれるということは少なくなってきています。
及川:私どもにも、つい先日、他社の安いメニューから、小田急グリーンプランに乗り換えるお申込みがありました。環境価値をもつ小田急グリーンプランの方が、価格だけを見れば高いのですが、その方はあえて申し込んできてくださいました。もはや、これは例外的な事例ではありません。こういうケースは、これからどんどん増えてくるでしょう。
小田急でんきのお客様は一般のご家庭が大半ですが、企業がお客様となる分野では、この傾向はさらに顕著ですね。とにかくCO2排出係数の低い電気を使いたい、多少高くても構わないから見積書を出してほしい、というような依頼を受けることも珍しくありません。
山本:脱炭素社会に向けた政府方針が打ち出されたことで、省庁や自治体の取り組みも加速しています。意外なところでは、自衛隊で、当社の再エネメニューが採用されています。全国各地の駐屯地で、CO2フリーな再エネ電力が使われているのです。
──この先、どこに向かおうとしているのか
及川:脱炭素社会への歩みは、まさにこれからが本番です。企業、家庭、省庁、それぞれの場面で強まってる脱炭素の動きを、我々もしっかりと受け止めていかなければなりませんね。とはいえ、新電力の立場でいうと、やるべき基本は変わりません。いかにお客様のニーズを捉えるか、お客様のニーズに沿ったサービスをスピーディーに展開できるか、ということに尽きるでしょう。
例えば、法人のお客様であれば、その業界の課題だったり、業務課題だったりを、エネルギーを使うことで解決に導いていく、そうしたことをただひたすらにやっていく。そうやってお客様の課題解決に尽力していくことが、当社の成長にもなりますし、脱炭素社会の実現にも繋がっていくと考えています。
山本:私どもも、再生可能エネルギーの電源を増やしていき、環境価値の高い電力をお客様にお届けするということが、脱炭素社会に向けての基本的な取り組みだと信じています。
電力業界は、安売りでシェアを伸ばすというような単純な競争ではなく、いかに付加価値を提供できるかが、競争力を決める要因となる時代に入りました。その点でも、「環境」は電力における最大の付加価値です。環境価値の高い電力をお客様に提供することを通して、お客様の環境への取り組みをお手伝いしていくこと、それこそが新電力業界に求められていることではないでしょうか。
及川:まったく同感です。脱炭素社会の実現に向けて、いままさに新電力の真価が問われています。お互いにスピード感をもって、流れをさらに加速させていけるよう、一緒に頑張っていきましょう。
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本対談についてのお問い合わせ・取材のご依頼は以下までお願いいたします。
三ッ輪ホールディングスグループ 広報(担当:加藤)
e-katou@mitsuwagroup.co.jp
政府は「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」との基本方針を示し、成長戦略の柱として「経済と環境の好循環」を掲げた。日本もいよいよ国を挙げて “脱炭素”への取り組みを進めようとしている。一方で、社会を動かすエネルギー、電力市場に異変が起きている。コロナ禍の中、これまでとは桁違いの高値が続いているのだ。
新電力は、この状況をどう捉えているのか? 脱炭素社会の実現に向けて、何を成そうとしているのか? 新電力業界の雄・丸紅新電力の山本毅嗣氏と、独自のスキームで電力販売の可能性を広げ続けるイーネットワークシステムズ及川浩氏の対談が実現した。両社の取り組みから見えてくる、2050年への道標とは──。
[聞き手:廣町公則(エネルギージャーナリスト)、撮影:有馬朋子]
市場に依存しない、安定供給を可能にする電源調達とは?
──卸電力市場価格の高騰が意味するもの
山本:昨年末からの卸電力市場は、高くなったというレベルを超えた異常な高騰を続けています。1kWhあたり7円8円だった価格が、150円200円、高い時には250円以上にまで跳ね上がってましいました。1日2日の一時的なものならともかく、それが何週間も続くというのは、異常な状況と言わざるを得ないでしょう。
深刻な影響を受けてる新電力(小売電気事業者)も存在します。我々も新電力業界の一員として、規制官庁である経済産業省に対し、その異常さを訴えてきたところです。
及川:おっしゃる通り、様々な要因があったとはいえ、この市場価格は異常ですね。経済産業省が緊急対策を実施したことで、発表後からは最高価格200円に留まっていますが、それでも異例の高値が続いていることに変わりはありません。私どものところにも、価格高騰にあえぐ他社さんの声は届いてきます。
──事業運営への影響は?
山本:私ども丸紅新電力は、お客様に供給する電力の大半を、丸紅グループがもつ自社電源と、個別に契約を結んだ発電事業者からの相対調達で賄っており、。卸電力市場からの調達は限定的です。しかし、この状態が続けば、業界が疲弊し、日本の電力の安定供給すら危ぶまれる事態にもなりかねません。
及川:私どもイーネットワークシステムズも、市場価格高騰による直接の影響は受けておりません。小売電気事業者として当社が販売する電力は、卸電力市場から直接調達してはおらず、そのほとんどを丸紅新電力さんから調達しているからです。これまでと変わらず安定的に供給していただいているので、市場がざわついている中にあっても、腰を据えて事業を行うことができます。
山本:私どもは長年電力事業をやってきましたが、電力事業というのは、しっかり発電をして、正確な需給管理を行い、お客様に安定的に電気をお届けすることだと考えています。重要な社会インフラを扱っているものとしては、市場に振り回されて、お客様に不安を与えるようなことがあってはなりません。市場環境が乱れているときだからこそ、我々の責務は一層重いと肝に銘じているところです。
及川:なるほど、良く分かります。じつは私、前職が東京電力でして、長く電力事業に携わってきたものですから、山本社長のお考えにはとても共感を覚えます。丸紅新電力さんは、長期的に電力事業に取り組んでいく姿勢と思想をお持ちです。
当社もそうですが、例えば、お客様にいったん提示した金額を上げたくはないんですね。しかし、市場からの調達比率が高い場合、それでは経営が立ち行かなくなってしまいます。丸紅新電力さんは、そうならないための取り組みをずっと続けてこられました。安いときに安いものを仕入れるというようなやり方ではなく、自社電源の開発も含め、長期安定的な供給体制の確立に努めていらっしゃる。市場からの調達比率を低くして、相対で確実に電源を確保するというのも、一朝一夕にできることではありません。
丸紅の電源開発×イーネットワークシステムズの独創性
──丸紅新電力とは、そもそもどんな会社なのか
山本:丸紅新電力は、総合商社「丸紅」の電力小売会社という位置付けになります。もともと丸紅の電力事業は海外からスタートしておりまして、既に半世紀以上の歴史をもっています。1960年代には発電設備の輸出が始まり、その後、発電所の建設請負いわゆるEPC(Engineering,Procurement,Construction/設計・調達・建設)という領域にも、いち早く参入しました。
1994年からはIPP(Independent Power Producer /独立系発電事業者)として海外での発電事業にも取り組み、2020年12月末現在、海外19ヵ国で44案件、発電設備の持分容量で約12,000MWを有しています。イギリスなど電力自由化が進んだ国でも、電力小売に取り組んできました。
及川:海外での豊富な経験が、日本国内のビジネスにも活かされているわけですね。
山本:はい。国内での電力事業には2000年の電力小売部分自由化のときから本格参入いたしまして、丸紅グループ全体でみると、 長野県伊那市の三峰川水力発電所を皮切りに、電源開発にも努めてまいりました。2020年12月末現在、国内発電事業は27案件、持分容量567MWに達しています。
電力小売は2000年、三峰川水力発電所の電気を中部エリアに供給するというところからスタートしました。丸紅新電力として動き始めたのは2016年の電力小売全面自由化からですが、当社には、丸紅グループが20年以上にわたって培ってきた電源調達や需給運用のノウハウが集約されているのです。
それらの強みを活かして、企業から一般家庭まで幅広いお客様に電力を販売しています。加えて、いわゆるバランシンググループサービスを提供していて、需給管理の代行業務や新電力(小売電気事業者)の電源調達先としてもご利用いただき、丸紅グループの豊富な自社電源をベースに、市場価格に左右されない電力をお届けしています。
及川:当社も、丸紅新電力さんから電力を仕入れているわけですが、市場価格高騰の影響を受けないというのは本当に有難いところです。仕入れ値の変動リスクを気にすることなく、お客様の課題解決に専念できるメリットは計り知れません。
──“電気を売る仕組み”を提供するイーネットワークシステムズ
山本:イーネットワークシステムズさんは、当社が電力供給をしている新電力の中でも急成長を遂げられている会社です。その背景には、イーネットワークシステムズさんならではの立ち位置、ビジネススキームの独自性があるのではないでしょうか。
及川:ありがとうございます。たしかに当社は、多くの新電力とはポジションを変えて事業展開しています。一般的に新電力は“電気を売る”のがミッションですが、当社は主に“電気を売る仕組みを提供する会社”として電力事業を行っています。私たちは、これを「電力小売プラットフォームサービス」と呼んでおります。簡単に申しますと、提携先様に電気を売る仕組みを提供して、提携先様の販売チォネルを活かし、提携先様のブランドで電気を販売するというものです。
例えば、小田急電鉄さんと提携して、「小田急でんき」という電力供給サービスを行っています。あるいは、「ビットコインが貯まるでんき」など、提携先様それぞれの強みを活かしたサービスを展開できるプラットフォームとなっています。岐阜県では、地方創生の観点から、電子地域通貨「さるぼぼコイン」の使用を促す電力供給サービスの構築にもお役立ていただきました。
山本:様々な企業との提携を実現し、その提携が提携先企業のブランド力を高め、電力販売量の増加という結果になって表れている。それぞれにWin-Winの関係を築いているところが素晴らしいですね。当社としても、できるかぎり協力させていただきます。
──「電力小売プラットフォームサービスfor新電力」とは?
及川:今年1月15日には「電力小売プラットフォームサービスfor新電力」という新しい取組みをスタートさせました。これまでの電力小売プラットフォームサービスが、小田急電鉄さんなど“従来は電気の販売をしてこなかった企業”に向けて電気を売る仕組みを提供しているのに対し、「電力小売プラットフォームサービスfor新電力」は、その名の通り“新電力”に向けてプラットフォームサービスを提供するものとなっています。卸電力市場価格の高騰を受けて、事業環境の急変に苦しんでいる新電力さんのお役に立ちたいと考え、立ち上げました。電源調達のサポートやシステム提供をはじめ、業務受託から業務提携・資本提携まで幅広く対応させていただきます。
CO2フリーの電力メニューで、温室効果ガス削減に貢献
──脱炭素社会に向けて、どんな取り組みをしているのか
山本:「2050年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにする」ためには、電力の脱炭素化を進めていくことが何よりも重要です。丸紅グループでは、水力、風力、太陽光、バイオマスなど様々な再生可能エネルギー電源を開発し、グループ全体として発電部門の脱炭素化に努めてきました。
丸紅新電力としては、2019年12月から、特別高圧・高圧の需要家様向けに「CO2削減電力メニュー」と「再エネ電力メニュー」を供給しています。「CO₂削減電力メニュー」はCO2排出係数の低い電力、「再エネ電力メニュー」はCO2排出係数低減とともに再生可能エネルギー比率を向上にこだわった電力となっています。イーネットワークシステムズさんの取り組みとも、通じるところがあるのではないでしょうか。
及川:はい。当社は、電源開発は行っておりませんが、まずはお客様に提供する電気料金メニューを通して脱炭素社会の実現に貢献したいと考えています。現在、「グリーンプラン」「グリーンプラン・フォレスト」「グリーンプラン・RE100」という3つのプランをご用意し、お客様のニーズに合わせて実質的にCO2フリーの電気をお選びいただいております。
丸紅新電力さんから調達した電力をベースに、それぞれに特徴あるJ-クレジット(※1)を付与することで、電気の使用に伴うCO2排出量を相殺し、実質的にCO2フリーの電気をご使用いただけるというものです。「グリーンプラン」は、環境にやさしいうえに電気の価格が安いプラン。「グリーンプラン・フォレスト」は、森林由来のJ-クレジットに限定することで、環境に優しいだけでなく日本の森林を守ることもできるプランです。「グリーンプラン・RE100」は、RE100(※2)の取り組みを進めている企業へのお勧めプランとなっており、RE100の認証基準にもそのままで適合します。
先にご説明した「電力小売プラットフォーム」に、これらのグリーンプランを組み入れることで、提携企業様は簡単に、独自のCO2フリーメニューをつくることができます。実際に、小田急電鉄さんは昨年10月、「小田急でんき」に「グリーンプラン・フォレスト」を組み合わせて、「小田急でんきグリーンプラン」という新メニューをつくりました。
山本:電気とLPガスをセットにしたCO2フリープランもあるそうですね。
及川:はい。昨年12月から、CO2フリーの電気とLPガスのセットプラン「みつばちガス&電気グリーンプラン」の受付を始めています。グループ会社でLPガスを扱っている三ッ輪産業の「みつばちガス」と、私どもイーネットワークシステムズの電気「グリーンプラン」をセットにしたもので、J-クレジットを活用することで、電気に加えてLPガスもカーボンオフセットすることができるサービスです。電気もガスも、実質的にCO2フリーのエネルギーをご使用いただけます。
ちなみに、本プランのJ-クレジットは、丸紅新電力さんから購入する予定です。
山本:ありがとうございます。電気とLPガスとJ-クレジットの組み合わせは、これまで存在しなかったものです。日本初の試みとして、私どもも大いに期待しています。
及川:丸紅新電力さんも、今年1月に、電力販売の枠を超えた新しいサービスを発表されましたね。
山本:はい。「M-ECO(エムエコ)」という名称なのですが、脱炭素化を目指す企業の再エネ導入やCO2削減を、多様な電力関連メニューで支援していこうという総合的なサービスです。具体的には、「環境配慮型電力販売」「卒FIT買取」「省エネレポート」「国内外・環境証券仲介」「再エネ発電の活用支援」「EV車統合管理」という6つのメニューで、お客様の環境課題解決をトータルにサポートさせていただきます。
現在、その第一弾として、RE100やSBT(※3)など国際的な枠組みにも準拠した「環境配慮型電力販売」を強化しています。「再エネ電力メニュー」「CO₂削減電力メニュー」に加え、工事用電力の再エネ・CO2ゼロ化を支援する「環境配慮型工事用電力プラン」などもご用意し、お客様それぞれのご要望に柔軟に対応させていただいております。
及川:私も常々、お客様それぞれのニーズに、いかに対応できるかが問われていると感じています。もう安ければ売れるという時代ではありませんからね。
※1 J-クレジット:省エネルギー機器の導入や森林経営などの取り組みによる、CO2などの温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度。クレジットを購入することで、CO2排出量を削減したものと認められる。
※2 RE100:事業で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目標に掲げる企業が加盟する国際的イニシアチブ。
※3 SBT:温室効果ガス削減目標の指標。産業革命時期比の気温上昇を「2℃未満」にするために、企業が気候科学(IPCC)に基づく削減シナリオと整合した削減目標を促す枠組み。
明日のために、需要家の脱炭素ニーズに応え続ける
──電気を選ぶ基準は、価格から環境価値へ
山本:お客様(需要家)が電気を選ぶ基準は、価格だけではなくなりました。環境価値への意識が急速に高まっていることは、CO2フリー電力への関心の高さからも明らかです。私どもの親会社である丸紅もそうですが、自社で使用する電気をCO2フリーのメニューに替え、こういう環境経営をしているのだということを積極的にアピールする企業が増えてきました。脱炭素への取り組みがステークホルダーや投資家からも求められていますから、価格だけで電気が選ばれるということは少なくなってきています。
及川:私どもにも、つい先日、他社の安いメニューから、小田急グリーンプランに乗り換えるお申込みがありました。環境価値をもつ小田急グリーンプランの方が、価格だけを見れば高いのですが、その方はあえて申し込んできてくださいました。もはや、これは例外的な事例ではありません。こういうケースは、これからどんどん増えてくるでしょう。
小田急でんきのお客様は一般のご家庭が大半ですが、企業がお客様となる分野では、この傾向はさらに顕著ですね。とにかくCO2排出係数の低い電気を使いたい、多少高くても構わないから見積書を出してほしい、というような依頼を受けることも珍しくありません。
山本:脱炭素社会に向けた政府方針が打ち出されたことで、省庁や自治体の取り組みも加速しています。意外なところでは、自衛隊で、当社の再エネメニューが採用されています。全国各地の駐屯地で、CO2フリーな再エネ電力が使われているのです。
──この先、どこに向かおうとしているのか
及川:脱炭素社会への歩みは、まさにこれからが本番です。企業、家庭、省庁、それぞれの場面で強まってる脱炭素の動きを、我々もしっかりと受け止めていかなければなりませんね。とはいえ、新電力の立場でいうと、やるべき基本は変わりません。いかにお客様のニーズを捉えるか、お客様のニーズに沿ったサービスをスピーディーに展開できるか、ということに尽きるでしょう。
例えば、法人のお客様であれば、その業界の課題だったり、業務課題だったりを、エネルギーを使うことで解決に導いていく、そうしたことをただひたすらにやっていく。そうやってお客様の課題解決に尽力していくことが、当社の成長にもなりますし、脱炭素社会の実現にも繋がっていくと考えています。
山本:私どもも、再生可能エネルギーの電源を増やしていき、環境価値の高い電力をお客様にお届けするということが、脱炭素社会に向けての基本的な取り組みだと信じています。
電力業界は、安売りでシェアを伸ばすというような単純な競争ではなく、いかに付加価値を提供できるかが、競争力を決める要因となる時代に入りました。その点でも、「環境」は電力における最大の付加価値です。環境価値の高い電力をお客様に提供することを通して、お客様の環境への取り組みをお手伝いしていくこと、それこそが新電力業界に求められていることではないでしょうか。
及川:まったく同感です。脱炭素社会の実現に向けて、いままさに新電力の真価が問われています。お互いにスピード感をもって、流れをさらに加速させていけるよう、一緒に頑張っていきましょう。
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本対談についてのお問い合わせ・取材のご依頼は以下までお願いいたします。
三ッ輪ホールディングスグループ 広報(担当:加藤)
e-katou@mitsuwagroup.co.jp